16.06.12

園の日常

満たされる

文:長谷川美枝子

「せんせい、これやりたい」
年長女児が1000のくさりを指さしました。
「〇〇ちゃん、これ1000までかぞえてすごかったな。
わたし、まだ、かぞえられへんねん」
他の子がしていたのを見ていて、
やりたかったのだそうです。
1000のくさりを絨毯の上に出すと、
「ながい~!」と、とても嬉しそうです。
1000まで数える仕事は、
大人なら大変面倒な仕事ですが、
世界を知りたい!つかみ取りたい!と
願っている子どもにとって、
大変魅力的な仕事です。
子どもが過ごす日常の中で
1000までゆっくり、その子の気の済むままに
数えさせてもらえる機会はなかなかありません。
子どもは嬉しそうに数え始めました。
一粒一粒、声にだして、どんどん数えていきます。
「、、、498、499、500」
数え始めてからもう一時間以上すぎました。
疲れたのでしょう。
その子は立ち上がって周りを眺めました。
それから
他の子がしている仕事を覗きに行って
「〇〇ちゃん、こんなに上手に折り紙折れて、すごいね!」
「〇〇君はこんなところまで書いて、すごいね!」
「えー、〇〇ちゃんこんなこと出来るようになって、すごいね!」
と感嘆しています。
まるで、心の中では
「わたしは1000までかぞえているんだ!すごい!」
と自分に言っているような、
そんな、嬉しくてたまらない様子が伝わってきました。
疲れたけれど、やめたくない様子でしたが、
680まで数えると、その日はおしまいにしました。
次の日の朝、昨日680まで数えた年長女児は、
嬉しそうに1000のくさりを数える準備をすると
また数え始めました。
もうすぐ1000!
そんな喜びの顔で数えています。
そしてついに1000まで数えると、
達成した喜びをひとり、
深く、静かに味わうような表情を見せ、
また片付けていきました。
こどもは内面の欲求に従い、自分で仕事を選び、
気の済むまま没頭し、
自分の力で達成した喜びに満たされました。
満たされると、素直で優しい気持ちになります。
この子が言ったように
「みんなすごい。(わたしもすごい)」
と心から思うようになるのでしょう。

環境がこどもに大きな影響を与えます。

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