21.08.18

園の日常

変化に富んだ園庭

文:長谷川美枝子(保育主任)

深草こどもの家は大岩山の麓にあり、こどもたちは朝、園バスを降りると七瀬川源流の脇を通り、冠木門を潜り抜け、毎朝85段ある階段を上って登園します。一段一段足を一生懸命あげてゆっくりゆっくり登っていく子どももいます。年少児はどんぐりを拾い、アリの様子をながめ、キノコが生えているのを発見し・・・肩からかばんを下げ、両手にはダンゴムシ、その上まだ竹の皮も拾いたいし、カタツムリも見つけて捕まえたい。「どうしたらよいのか!」と毎朝考えている人もいます。年長児になると、「あれをしよう」「○○くんはもうきているかな?」など、はやる胸の内を抑えることが難しいかのように、一気に駆け上がっていくようになります。(大人はこの階段を「その日の体調がわかるバロメーター」と呼ぶ)

登園バスがすべて到着したら、外で遊べます。急ぎ足で出かけていく子どもたちを自然が四季折々の姿で迎え入れます、気温の違い、湿度の違い、木々の葉の色、その日出会う生き物もいつも少しずつ違います。赤羽が最初に深草の土地を見たとき、「庭が平らでないのが良いな!」と思ったといいます。この庭でたくさん遊んだら、凸凹の上を走り回っても転ばないバランス感覚、多少転んでも大怪我しない身体能力を身につけていくというのです。なるほど、小さい子どもたちを見ていると竹藪へ行くのにも、わざわざ上りにくい崖の部分から両手両足を全部使って、登っては降り、降りてはまた登り…と何度も繰り返しています。「運動の敏感期」にいる子どもたちにとって、自分自身を創造する大切な「仕事」です。

色々な草花が生えています。臭いのする草花(レモンバーム、シソ、ミント、ラベンダー、金木犀など)、食べられる草や実(カタバミ、キンカン、モモ、プラム、ブルーベリー、ビワ、なし、キウイ、クルミなど)。毒のある葉や実(水仙、シダ、ヨウシュヤマゴボウの実)は食べたり、モルモットに食べさせたりしないよう注意することを学びます。蝶が卵を産む葉(ナミアゲハはミカン科、ツマグロヒョウモンはスミレ類、ホウジャクはクチナシなど)、いろいろな形の葉(針形、披針形、倒披針形、円心形、楕円形、腎形・・・)。竹やクヌギ、桜などの木肌の触感の違い、鉄やステンレス、石、様々な素材も触ってみると、その日の気温で触った感じが随分と異なります。子どもたちは外と中を行ったり来たりしながら、自分の興味関心に引き寄せられ、思い思いに活動しています。モンテッソーリ教具の「嗅覚筒」「味覚壺」「温覚板」「ピンクタワー」や「赤い棒」などなど数ある教具は、子どもたちが実体験から得た雑然とした印象を科学的な視点で整理することを助け、子どもたちを新たな世界へと誘います。この活動もこどもにとって大切な「仕事」です。様々な教具をした後にもう一度外へでると、子どもたちは前とは違った目で世界を見るようになっていきます。

このような「変化に富んだ庭」の中で育つ子どもたちは、それぞれが誕生から内に秘めている能力を最大限に伸ばしていくことが出来るのだと思います。空調で管理された室内、どこまでも平らな床、一定の素材でかこまれた壁、ケガをしないようにゴムが敷き詰められた園庭。それらは大人には都合が良い環境でも、こどもにとってはどうでしょうか。内に秘められた伸びようとする力も萎えてしまうでしょう。今まさに自分自身を創造している子どもたちにとっては変化のある本物の魅力的な環境が必要です。