16.06.02

園の日常

ある日の出来事

文:長谷川美枝子

深草こどもの家では、
お茶を飲む時には湯飲み茶碗にお茶を注いで、
お盆にのせて、自分の席まで運びます。
飲み終わったら、流しでスポンジを使って
茶碗を洗います。
これは、いつも家でお母さんがしていること。
お母さんのしていることがやりたい年少児にとって、
とても魅力的な仕事です。
ある日、年少の女の子が茶碗を洗っていました。
楽しくて、楽しくて、いつまでも洗っていました。
そのうちに、
お茶を飲み終えた年長児が茶碗を洗おうと
やってきて言いました。
「〇〇ちゃん、あらいおわったらかわってね」
年少児は答えました。
「だめ」
すると、その年長児は少し困った顔をしましたが、
すぐにまた、こう聞きました。
「じゃぁ、これもあらっといてくれる?」
「うん!」
年少の女の子はとても嬉しそうです。
年長児は「ありがとう!」といっていなくなりました。
しばらくして別の年少男児がきました。
女の子はいいました。
「それもあらってあげる!」
でも年少の男の子は顔をゆがめていいました。
「だめ。ぼくがあらいたい」
女の子は男の子から目をそらすと、
黙って茶碗を洗い続けました。
男の子は「はやくあらいたい!」
と騒ぎ始めました。
様子を見ていた年長児たちがやってきて、
「まっているひとがいるから、かわってあげて?」
と女の子をなだめ始めました。
まだまだ洗いたいのに、
もう終わらせないといけない雰囲気を感じた女の子は
水道の蛇口をいっぱいにひねり、勢いよく水を流しました。
そして水が飛び散って、あたり一面、水浸しになってしまいました。
先生が水を止めると(大好きな活動がこんな形で終わってしまったことを残念に思ったのでしょう)女の子は真っ赤な顔をして部屋の隅へいって泣きました。
「どうしよう。みずびたしになっちゃったね」
「まだちいさいからしかたがないよ」
「これ、どうする?」
一部始終みていた年長児たちが話し合い
「ふいてあげるわ!」ということになりました。
床をふいてくれた二人の年長男児は
「しかたないよな。まだちいさいしな」
「うん、おれたちがやってあげような」
と、話し合いながらバケツと雑巾をだし、きれいに床をふいてくれました。
二人とも自分たちが誰の手も借りずに、きれいに元通りにしてあげたことで
ずいぶんと立派になった自分を感じているような、誇らしげな顔をしています。
女の子はというと、
どうしていいかわからなくなって、怒って泣いていましたが、
しばらくすると「もうおこってないよ」と言いにきて
笑顔になって帰っていきました。
しばらくたったある日、
その女の子の兄が遊びに来ました。
この兄のことを、一学年下の年長児は
とても尊敬してあこがれています。
お兄さんは来てすぐに年長男児二人のところへ行くと
「なぁ、こないだありがとうな!
〇〇ちゃんがこぼした水、二人でふいてくれたんやろ?ありがとう!」
とお礼をいいました。
二人はもう目をキラキラさせて、互いに顔を見合わせました。
「あのときのことやんな?〇〇君しってたな!?」
ふたりは先生に褒められた時よりもずっと嬉しそうな顔をしていました。
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