16.12.14

園の日常

自分で決める 2 クリスマス劇の役決め

文:長谷川美枝子

クリスマス週間に行われる聖劇「クリスマスの物語」の役は、こどもたちが自分でやりたい役を決めます。
でも、自分で選ぶ、決めるためには、そのことについてよくわかっていないと、良い選びができません。

だから決める前に「好きな役で劇をする」日を何日か設けます。

今年は3回、好きな役でする日を設けました。
3回目の日、ヨセフをする人が誰もおらず、劇を始められずにいました。
ヨセフはマリアと結婚することになっていた、心の正しい人です。
「昨日ヨセフしたから、今日は博士をやりたい」
「僕は宿屋がいい」
「羊飼いがいい」
「絶対にヨセフはやりたくない」

など、口々に話して、なかなか決まりません。

「ジャンケンで負けた人がなればいい」という意見もでましたが、
「これは、嫌々するものではないから、ジャンケンで負けた人がなるのはおかしいね」
と先生が伝えます。
「でもいったいどうすれば、いいんだろう!」
とみんなで考えていた時に

ある子がマリア役の人にききました。

「Aちゃんは誰にヨセフの役をしてもらいたいの?」

「うーん・・・」

その日マリア役をしていた人は周りを見回して、しばらく考えてからいいました。
「私、本当はBくんにヨセフになってもらいたいの」
B君は「ヨセフの役は嫌だ」といって、宿屋になっていました。
しかし、Aちゃんに言われたB君は、
さっきは嫌だといったけれど、

どうしようかな?という顔をしました。

「今日決めるわけじゃないから、B君まだヨセフの役していなかったし、やってみようか?」
と先生に言われると、B君はジリ、ジリ、っと足を進め、
ゆっくり、ゆっくり、ヨセフの席に移動しました。
みんなが「よかったー!劇が始められる~!」といって劇が始まりました。

しかし劇が始まると、
B君の目から涙がぽろん、ぽろん、と落ちてきました。
マリア役のAちゃんは「大丈夫?」と
顔を覗き込んで心配しましたが、
B君は何も言わずに劇を続けました。
前に出てきたり、セリフを言ったり。
でもやはり、涙がぽろん、ぽろん、とこぼれます。

やっぱり、嫌だったんだろうか?
でも本当に嫌なら劇を続けないんじゃないかな?
こどもたち、先生たちは、静かに見守りました。
B君は最後までヨセフ役をやりきりました。

その次の日、いよいよ本当に劇の役を決める時がきました。
みんながみんな、納得いく役をするために話し合いました。
B君は、「ヨセフの役をする」といいました。
昨日の涙はきっと、
「一人で前に出て、皆が注目する中でセリフを言えるのだろうか・・・?
恥ずかしくならないだろうか・・・?
失敗したらどうする・・・?」
そう自分に問いかけて、でた涙だったのでしょう。
自分には荷が重い、そう思っていたけれど
でも実際にやってみたら、これはできるかもしれない、と思ったのかもしれません。

今日、B君は聖劇の本番を迎えました。
大きな声で、立派にヨセフ役をつとめました。
子どもが嫌だという時、本当は自信がなくて言っていることもあるのだなとわかりました。好きな役でする日を何日も設けて、子ども達皆それぞれが、自分の選びをしました。聖劇を通して、また、子どもたちは一回り大きく成長しました。