23.03.21

園の日常

子どもたちを自由にさせればさせるほど、子どもたちの抑制力が伸びる?

文:長谷川美枝子

社会性、自己抑制力、そして挑戦する力が育つ、こどものための「自由」な環境

モンテッソーリ教育。それはただ子どもが賢くなるためのツールや早期教育ではなく、この教育の目標は「調和の取れた人格形成」であり、周りも自分も大切にする、平和を創造する人間に育つことにあります。

いうまでもなく幼児期は人格形成に特に重要な時期です。幼児期に充実した生活を送り、”正常化”*されると、その影響は社会へ出て、独立して生きる頃に、幼児期に育ったものが核となって実力を発揮していくと言われています。学校法人化プロジェクトが始まってから寄せられる卒園生たちの言葉によると、自由な学びの環境で育つことで「自分で考える力」「決断力」「想像力」「洞察力」「挑戦する姿勢」を身に着けることが出来るのだと言います。

今年は年始にJAM近畿支部研修会にて大原青子先生(AMI0-3トレーナー)をお招きし、「集中現象と実行機能」をテーマにお話しいただきました。その中で「自由にさせればさせるほど、抑制力が育つ」というお話を伺い、深草こどもの家が実践している、「子どもたちにたっぷりの自由な時間を与える」「こどもたちが自分のやりたいことに向き合える環境を整える」ということが、こどもが育つために大切なこととして科学的に実証されているのだと、大変嬉しく思いました。特に4~5歳で実行機能(実際に行動にとりかかる、挑戦する力、自分で目標を達成する力)が著しく発達するのだと言います。とても勇気づけられるお話でした!

こどもたちを自由にさせる。そうするとざわざわしたり、めちゃくちゃにする子どもが出てくるのではないか?選べる課題があっても、それを子どもが選ぶことなく、無秩序で騒がしくなるくらいなら、一斉に集めてしまって先生が楽しいこと、面白いことをしてあげたほうがよっぽど良い時間をすごせるのではないか?そう考える保育者も少なくないでしょう。

でもそうではないのです。自由にさせて、子どもが自分で何をしたいか、室内外を自由に動いてもらい、自分で選ぶまで待つ。そして選んだらすかさずその時に援助をする。そういうことの繰り返しで、一人、また一人、と落ち着きが表れ、めちゃくちゃにみえていた子どもたちが、自分の本当にやりたいことを見つけて集中するように変わっていきます

自由にさせると、当然、喧嘩もします。

こどもたちが数十人集まれば、意見の違いや思い違いで、我慢をしたり、我慢できなかったりすることが出てきます。だからこそ話し合いが必要で、自分が今、どんな気持ちでいるのか、言葉にして表現する必要があります。3-6歳というのは社会性が著しく発達する時期でもあります。喧嘩にならないように保育するのではなく、自分の思いを伝えることのできる、そして周りの人の思いを汲んで、自分も相手も大切に活動できる人に成長するために、この子どもたちの話し合いはとても大切だと考えます。

前頭前野の発達は20歳くらいまで続く

卒園までに、それぞれの子どもたちがもちろん成長しますが、それでも卒園時に「小学校でどうなるかな」と内心すこし心配しながら送り出すお子さんもいます。でもそういうお子さんたちが、小学生になって来園する際に幼児期とは違った落ち着きと、賢さを具えていることを毎回確認するのです。そうして毎回「やっぱり大丈夫だ!」とほっとし、子どもの成長はすごいなぁと感心するのです。前頭前野の発達は20歳くらいまで続くのだそうです。だから大人になるまでのそれぞれの時期がそれぞれに大切な成長期であるのだということ、子どもの成長を長い目で見ていくことが大切だと思います。急いで「今やらせなければ!」と押さえつけてしまって、その子のもっている本来の素晴らしい能力までもつぶしてしまわないように気を配らなければならないと思います。

幼稚園、保育園の中には、常に動き回っている子、言葉を発することを抑えられないお子さんもいると思います。子どもの中には、動くことで自分自身の神経を覚醒させて、集中を高めようと、そのために動いているお子さんもいます。式やイベントがあると、いつもと異なる状況が受け入れがたく、そわそわ落ち着かなくなるお子さんもいます。そういうお子さんに対しても、その子の資質に寄り添い、自由を与え、辛抱強く見守っていると、その子が集中する瞬間が見つけられます。その時にすかさず支援すること、出来たことを認めて気づかせてあげると、少しずつ少しずつ、自信をつけていき、変わっていく姿を見てきました。

我慢させた子どもが我慢強く育つのではない

児童精神科医の佐々木正美先生の著書の中に、赤ちゃんの時に「夜中に赤ちゃんが求めたときにすぐに授乳したグループ」と、「夜間は授乳を我慢させたグループ」の実験というとても興味深い話がでてきます。この実験はどちらのグループが我慢強く育つだろうか、というものでした。実験結果は授乳を我慢させたグループは、赤ちゃんはおっぱいをもらえないとはじめこそ泣くのですが、しばらくすると授乳をしなくても泣かなくなるのだそうです。しかし、この実験の興味深いところで、それは我慢させた子どもが我慢強く育つのではなく、むしろ大きくなった時に「どうせ自分なんて」とあきらめる気持ちの強いこどもに育ったというのです。一方、泣いて求めたらすぐに授乳してもらったグループの子どもたちこそが、自分は大切にしてもらえる存在であると認識して自己肯定感が高く、目標のために自己抑制することのできるこどもに成長したと言います。

こどもは叱ったり、我慢させたりして育てるよりも、話ができる年齢になったらよく話を聞いてあげ、その子の思いが言葉になるように、その子がやりたいと思っていることができるような、そういう環境を与えること。そして自由があって異年齢のこどもたちがいて、多種多様な性格の違う子どもたちが共に育ちあうことが最も大切だと思います。優しくされたこどもが優しく育ち、愛され大切にされたこどもが人を愛し、人を大切にするこどもに育ちます。

自然のやり方に倣おうではありませんか。M.Montessori

自由な環境には、自然も欠かせません。自然がこどもたちに語りかけ、遊びにいざなうこと、それがどんなに保育を豊かなものにしてくれているか。自然抜きにはこの教育の良さも半減すると思います。モンテッソーリ自身も「自然は命について教える教師」といい、自然のやり方に倣おうではないか、という言葉を残しています。

また、福岡伸一さんは言います。

「生物の進化とはジグソーパズルのようだ。二つとして同じ形はないけれど、互いに他を支え合いつつ、互いの形を決めている。生物というのは利己的にふるまっているわけではなく、絶えず弱肉強食みたいに競争しているわけではなく、あらゆるところで協力している。互いに他を助け合いながら、互いに他を律している。隙間なく相互作用が組み合わさって豊かな自然がつくられている。」

人間の狭い視点だけでなく、このような壮大な視野から考える感性を養ってくれるのが、自然だと思います。

 

3歳~6歳児が毎日生活する園として、これからもこどもたちが自分で考えて、自分で体験して、手と身体、心を動かして、やりたいことに出会える環境、集中できる環境を守ること、良い環境を作り続けていけるように、励んでいきたいと思います。昔とは違った生活環境にいる子どもたちが幸せに成長発達できるために、私たちができることを常に考えていきたいです。

 

*正常化・・・無秩序、衝動性、不従順という「逸脱」した状態から解放され、こどもが本来持っている秩序感、自立心、平和を愛する心、やる気に満ち、生き生きと喜んで活動する状態へシフトしていくこと。

https://www.instagram.com/fukakusakodomonoie/

*写真は勧修寺園舎の松の木。これから松ぼっくりになる?松の木を観察するのは初めてなので楽しみです!